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盛岡家庭裁判所 昭和47年(少)1273号 決定

少年 K・N(昭三四・一〇・一六生)

主文

この事件を岩手県中央児童相談所長に送致する。

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

理由

(審判に付すべき理由―送致事由および触法事由)

少年は小学校在校当時から自宅からの現金持出し、空巣などの行為を繰返し、岩手県中央児童相談所の指導を受けていた者であるが、昭和四七年四月○○中学校入学以降においても、窃盗→無断家出→放浪徘徊(仙台、東京方面)→補導という型の不安定な生活を繰返し、その間、同年八月三日および一〇月二日の二度にわたり、同相談所に一時保護されたにもかかわらず少年の右性癖はおさまらず、同年同月一三日、県立教護院○○学園に入園措置が取られ、同園において教護教育に服していた者である。しかし、少年は入園直後ころから、同園生徒とともに二度にわたり同園から逃走し、窃盗(車上荒し、さい銭盗など)を反覆しながら盛岡、一関、仙台、福島などを放浪徘徊し、同園の教護に順応しなかつた者である。

以上のとおりであるから、少年は開放的処遇を前提とする同園ではその指導の限度を超えるもので、同教護院では教護不適であるから、要強制措置の少年として本事件を送致するというものである。

(当裁判所の判断)

岩手県中央児童相談所長の送致書別添の児童記録票(写)、経過票(写)、本少年の警察署事務吏員に対する申述書(写)、当裁判所調査官鶴田教蔵作成の少年調査票、盛岡少年鑑別所作成の鑑別結果通知書および少年、保護者の当審判廷における各供述によれば、概ね上記審判に付すべき事由中の少年の行動、性癖ならびに岩手県中央児童相談所、県立教護院○○学園における処置、処遇の経過を認めることができ、さらに次のような点を指摘することができる。

一  少年の無断家出、放浪あるいは窃盗行為を反覆する性癖は環境を変化させることによつても防止しえないのではないかと思われるほどに深化しているように思われ、もはや強制的措置をもつて強力に指導すべき段階にあるとも考えられる。

二  しかし、他面において

(一)  少年の知能はI・Q・一一八と秀れており、性格は陽気で、軽卒な行動に出るところは認められるが、特に問題視すべき性格上の欠陥もなく、全体として人格内容は豊かでしつかりした個性的、現実的な考え方を期待できること

(二)  少年の非行深化の原因は安易に判定しえないが、初発非行の段階での少年に対する両親の指導、助言に適切を欠く点があつたのではないかと考えられるが、両親は岩手県中央児童相談所あるいは中学校の担任教師と相談しながら、少年に対する監護を尽しており、家庭内に問題もなく、今後も少年の保護を十分に期待できること

(三)  少年は教護院○○学園に入園してまだ日も浅く、教護院での不適応は自己の性格、能力、体験による確定的な集団生活に対する反撥によるものよりも、入園初期の施設に対する不慣れによるものと考えられ、今後なお若干の悪化はあるとしても、時間が経過するに従つて、同園の生活に適応することを十分に期待できること

(四)  当審判廷における少年の供述によれば、少年は今回の少年鑑別所の生活を通して、反省の機会を持ち、今後の生活に対する決意もかなり固めたことが窺えること

以上のとおりであるから、少年の非行の深化からして、少年の保護育成のためには専門的な指導を継続する必要があるが、少年の年齢、性格、知能からして、本件を岩手県中央児童相談所長に送致し、同所において、なお児童福祉法上の適切な方法による指導を継続することを期待するとともに、今後の観察経過をみたうえで、要強制措置をとることを考慮すべきであると考え、主文のとおり決定する。

(裁判官 本井文夫)

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